元は40年以上前に発売された左の写真のビクター BLA-G620T というスピーカーです。このスピーカーの方式はそのままにしました。大変よく鳴るスピーカーでした。ただ、音全体がややぼやけているような、やや濁りがあるような印象です。そこで今回、ボックスだけを作り替えることにしたのです。バスレフ方式に変わりはありませんが、中間に仕切りを入れて、ダブルバスレフもどきにしてみました。ただし音道はだだっぴろいので効果のほどは未知数です。
上記スピーカーのユニット、ネットワークをそのまま活用しました。低域用に使われている KDU コーンのおかげで、クラシックには実に良く合います。配線を新しいものに換えれば音は確実に「良くなる」のは分かっていましたが、ある人に言われたことに私も同意していじらないことにしたのでした。「このスピーカーを設計、製作した人たちの方針、感覚に敬意を払いたい」というのがその人の考え方でした。
* 元のスピーカー容積 = 41 L 、重さ = 7.6kg
* 新スピーカー容積 = 49 L 、 重さ = 15.8kg
ひと回り大きくしてもう少し低音を出したい、という目論見でやってみました。
初めてスピーカーを作った頃はおそらく合板というものはまだなかったはずです。あったとしても、その質はスピーカーに使えるようなものではなかったと考えています。そうすると当然当時ボックスに使ったのは無垢材ということになります。原点に戻る、というような大げさなことではありませんが、もう少し自然な音になるのではないかと考えて無垢材で作ることにしたわけです。
元のボックスは 10mm 厚のラワン合板です。ボックスも鳴らす、という設計だろうと思います。確かによく鳴るのですが、経時変化等もあってか、力強さに欠ける、音がぼやけている、ような気がしてしまうのでした。
六面全部を無垢材にすると、割れ、の危険があります。さくら材は厚さ22mm、上下、左右の四面だけに使い、前後は無垢の合板にしました。ボックスの剛性はかなり上がり、ボックス自体の振動は元のものより相当減衰していると見ています。なお残る振動は無垢材によるものですから、より楽器に近いのではないかと感じています。
バスレフの断面積は、合計約 10 ㎤ 小さくしています。容積を大きくしたのだからダクトも太くと考えましたが、元の音がぼやけた感じがしたものですから少し締めたいという狙いです。元のボックスにはただの穴だけですが、今回は長さ 50mm のダクトを取り付けています。口径 50mm を二個ずつ付けました。
吸音材は一切使いませんでした。スピーカーも楽器と考えるからです。厳密にはプレーヤー、アンプ等の電気的処理過程を通るのですが、それでも可能なかぎり小細工をしないで生の音に近づけたいと考えました。
さくら無垢材と後ろバッフルにはグレーズオイル、フロントバッフルは黒に着色後艶消しウレタンを吹き付けました。下地調整はだいたいですので、かなりでこぼこしています。これはまあ、全体がさくら材のなめらかさが際立っていますので、少し変化を与える狙いがあります。
スピーカーを設計できるほどの知識はまだありませんが、家具屋という立場を利用してまずは古いスピーカーの箱だけでも作り直してみようと取り組んだものです。
出来上がってからまだ4時間ほどしか鳴らしていませんが、なんと、ホールの響きです! 音はすっかり澄み渡り、各楽器の音がはっきりし、低音は少ないながら締まったものになりました。オーケストラの楽器は皆自然の素材ですから、やはり無垢材との相性は抜群ではないか、と感じています。バッハのチェンバロ曲は、とても豊かな響きとなりチェンバロという楽器を初めて聴いているようです。
今後エージングが進んで、どのように変化していくのか分かりませんが、大きな楽しみです。
今回、箱を無垢材に換えるだけで驚くほどの改善が見られることが判りました。オーディオは究極の主観ですから、私が感じたことは何の普遍性もありません。しかし、試してみる価値はあります。スピーカーを本来の意味でアコースティックな「楽器にする」と考えることはできないでしょうか。
自作派の方には今さらということになるのでしょうが、無垢材をこのように使う方をほとんどお見かけしません。私は現役の注文家具屋ですので、加工、組み立て、塗装に関しては満足いただけます。ご指定の仕様に充分対応することが出来ます。無垢材化した「楽器」の音を一度お試しください。